大学生の時、とある男性の愛人でした。
お相手は倍以上の年齢の方。
どうしても叶えたい夢があり、奨学金を借りて大学に進んだものの、アルバイトが忙しく学業との両立に悩んでいたときのこと。
バイト先のお客さんだった男性、鈴木さんとしますね。
鈴木さんは私が目標としていた職に就いているということもあっていろいろ相談させて頂いていました。
夏休みは稼ぎ時なのでバイトを入れまくったのですが、親の扶養を抜けていたので健康保険なども自分で払わなければならず、生活はカツカツ。仕送りは入学してすぐの4月にまとまったお金をもらっただけで、あとは全て自分で賄っていました。
父はおらず、母だけの家庭だったのと、下にはまだ弟もいたからです。
大学→バイト→勉強の毎日でサークルなんて入ってるヒマはありません。睡眠時間は毎日5時間もありませんでした。
親のお金でのんきに学校に通う友人たちが羨ましくもあり、妬ましくもありました。
そんな苦しい生活が続いていた頃、鈴木さんがバイト先を出た私に声をかけてくれました。小雨が降る中、私を待ってくれてたようです。
「元気ないから心配で、なにか美味しいものでも食べに行こうか」
父親がいたらこんな感じなのかな…と嬉しくて泣いてしまいました。
鈴木さんは優しくハンカチを差し出してくれ、私が泣き止むのを待っててくれました。
鈴木さんに連れられて行ったのはイタリアンのレストラン。
以前ピザが好きだと話したのを覚えてくれてたのです。
石窯を使った本格的なピザを出すお店で、そういう高そうなお店は初めてだったので嬉しさ半分申し訳なさ半分、といった所でした。
食事をしながら、鈴木さんはいろんな話をしてくれました。
業界の裏話や同級生とバカ騒ぎした話、最近のニュース関連のものなど。
私の目指す業界の先輩だけあってどの話も興味深く、それに笑い話として語るので食事のあいだ中、憂鬱なことを忘れることができました。
涙のワケも落ち込んでいる理由も聞かず、こうして笑わせて励まそうとしてくれてる所に大人だな~と、感動。
食事を終えると鈴木さんは名刺を取り出し、裏に携帯電話の番号とメールアドレスを書いて渡してくれました。
「何か困ったことがあればいつでも連絡してね」
「心から応援してるから」
またしても泣いてしまった私。
ご馳走になってしまった上にこんな気遣いまでしてもらって、お礼のしようがないです…と話すと鈴木さんは笑いながら『いつか一緒に仕事できる日が来るのを楽しみにしてるよ』と話し、帰っていきました。
それからも今までと変わらない日々は続きました。
大学に行き、バイトに行って勉強。
土日もフルでバイトに入ってたので、店長さんの好意で社会保険に加入できて助かりました。
しかし2年生になり、専門の講義が始まると今迄とは状況が一変。
一冊数千円~もする教科書を山ほど買わないといけなくなり、日々の勉強もバイトの合間にできる量じゃありません。
大学の近くの古本屋さんで教科書を安く買ったりするものの、数年前のもので講義で使うものとは内容が変わってたりして困ることも多々。教科書代をケチるんじゃない!と教授に怒られたこともありました。
仕方なく新品で買うと今度は生活費が無くなり、日々の食事はバイト先のまかないだけ、という状況。
ガス代が払えなくて水風呂に入ったことも何度もあります。
体力的にも精神的にもギリギリでした。
そんな生活が半年ほど続いたとき、またバイト先を出たところで鈴木さんに声をかけられました。
目の下にはクマ、頬もこけていて、自分では分かりませんでしたが悲惨な見た目だったそうです。
前回と同じピザ屋さんではなく、個室のある和風の居酒屋さんでした。
鈴木さんは前回と違って、店につくなり深刻そうな表情で尋ねました。
「他人の僕が聞いていいのか随分悩んだけど、最近の君の様子で かなり切羽詰まった状況じゃないかと思ってね」
「僕で良ければ力になりたい」
お金のことなんか話せないよな…
そういう思いもありましたが、家族や友人を含めて、他の誰にもできない相談でした。
鈴木さんがわざわざ人目につかない個室のあるお店を選んでくれた気遣いもあり、現在の状況を話すことにしました。
奨学金を借りながら大学に行っている。
一切仕送りはなく、生活費も全て自分で払っている。
学費こそ免除申請が通ったけど、生活費がかなりキツい。
教科書代も馬鹿にならず、一日一食しか食べれてない。
国家試験のための塾に行きたいが、とてもその費用はまかなえない。
バイトが多すぎて勉強に支障が出ていて、定期試験でもあまりいい成績が取れていない。
全て話し終えると、鈴木さんは案の定困った顔をしていました。
それもそうです。
結局、足りないのはお金。
誰かに相談したところで解決するような問題ではありません。
鈴木さんはひとつため息をつくと、金銭の援助を申し出てくれました。
もちろん断りましたが、「じゃあどうするの?」と言われると何も言えません。
苦肉の策といいますか、代わりに鈴木さんの会社でバイトしますと提案しましたが、学生の私にできることはほとんどない上に、結局バイトが多くて勉強に集中できないという状況から抜け出せないと。
肉体関係を切り出したのは私からでした。
他に差し出せるものが何もなかったのです。
鈴木さんは「そんなつもりで提案したんじゃない」と断りましたが、対価もなくお金を受け取るということがどうしてもできず、私も譲れませんでした。
鈴木さんはバツイチで、お付き合いしているお相手もいないということを知っていたので、問題はないかなと…
借用書を書いて、働き始めたら返すってことじゃダメなのかと鈴木さんは言いますが、それでも利子代わりに、何か鈴木さんに対価を払わないとという思いは変わりません。
他に提案があれば聞きます、でもこれぐらいさせて貰わないとお金は受け取れません。
そう突っぱね続け、ついに鈴木さんが折れました。
「おれみたいなオジサンなんか」
「お母さんに申し訳ない」
「お父さんが生きてたら悲しむよ」
「もっと自分の体を大事にした方がいい」
あの手この手で考え直すように説得されましたが、もう決心はついていました。
そして2週間後、初めて鈴木さんとホテルに行きました。
高校の時以来2年ぶりで、痛みもありましたが、鈴木さんの役に立てるなら…という思いで一杯でした。
でも鈴木さんは満足したというよりも、終始申し訳なさそうな様子で、私としても残念な体験になってしまいました。
「どうせ同じ行為をするなら楽しんで欲しい」
そう思った私はセクシーな下着を買ってみたり、女性向けのアダルトビデオを借りて勉強してみることに。
鈴木さんの援助のお陰でバイトもやめ、時間にもお金にも少し余裕ができたからこそ、少しは鈴木さんのために還元しなければ。
その努力が実を結んだのか、半年もするころには鈴木さんもノリノリでした。
アダルトビデオの中でしか見たことのないプレイを求められたこともあります。
恥ずかしい気持ちももちろんありましたが、恩人のためなら…そう思って彼氏も作らず、鈴木さんのためだけに尽くしてきました。
大学生向けの、国家試験予備校にも通わせてもらい、国家試験も合格して就職も決まりました。
鈴木さんのおかげで勉強にも集中でき、学校の成績も良かったので就活もかなり楽でした。
合格の報告をした日、鈴木さんとあのピザ屋さんで祝杯をあげ、またホテルに行きました。
ベッドで横になっていると、鈴木さんが一枚の書類を取り出しました。
3年間分の援助額が書かれた借用書。
途中から奨学金も止めたのでかなりの額になっています。
数年がかりで返そうと思っていたのですが、鈴木さんはその借用書をビリビリに破り、ゴミ箱へ。
呆気に取られる私に鈴木さんは優しく言いました。
「君が僕に遠慮して彼氏を作ろうともしなかったのは知っていたよ」
「若い内だからこそできる恋愛もあっただろうに申し訳ない」
「国家試験合格、それに就職おめでとう」
「これからはもうこんな紙切れに縛られずに、自分のやりたいように、自由に生きて下さい」
私は鈴木さんにお金を返し終えるまで、ずっと鈴木さんに尽くすつもりでした。
でもそれを見抜いていたのでしょう。
それでも返します、と言い張りましたが、鈴木さんは破った借用書を指さし「返す根拠がないよ」と笑いました。
鈴木さんの思いやり、優しさが身に染みてまた少し泣いてしまいました。
鈴木さんは話を終えると着替え始めました。
「帰るんですか?」
いつもは泊まっていくはずなのに。
「これで話は終わり」
「おめでとうって言葉と、お金は返さなくていいっていうことを伝えたかっただけなんだ」
「あの紙切れが無くなった時点で、僕らはもう”そういう関係”じゃないからね」
これも鈴木さんなりの配慮なのでしょう。
「次会うときはただの同業者」
「でも先輩として困ったことがあったらいつでも相談においで」
「仕事に関する相談ならいつでも歓迎するよ」
そう言い残して鈴木さんは帰っていきました。
あれから3年。
無事に就職した私は新人ながらなんとか頑張っています。
寝る時間もないようなキツい業種ですが、小さい頃からの夢だったのでやりがいは凄くあります。
結局鈴木さんとはあれ以来会っていません。
彼からも連絡はないですが、狭い業界なのであまり変な噂が立つのも良くないかと思い、私からも連絡はしていません。
それでも彼に対して感謝を忘れたことはありません。
現在の私は彼のおかげで成り立っているのですから。
愛人関係を結んで大学に通うというのはあまり人聞きのいい話ではありませんが、後悔はしていません。
こういう形もあっていいんじゃないかなと。
夢を実現するための一手段として、そういう人たちの後押しができればと、この話を書いてみることにしました。
参考になれば幸いです。
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