古い話で恐縮ですが、これは90年代初頭、私が愛人契約を結んでいたころの話です。
当時私は35歳。
妻とは別居状態で、会社の近くにワンルームマンションを借りてました。
バブルは弾けて景気は低迷しだした頃でしたが、私の会社は特殊な業種のため、当時は景気に左右されず好調な業績を維持しておりました。
お陰で次長というポストにいた私は経費がある程度自由に使えていました。
久しぶりに1人暮らしを始め、やはりというか、少し人恋しくなってきた時でした。
スポーツ新聞にパートナー紹介という妙な広告を見つけたのです。
それが愛人バンクだと気づくまでにはさほど時間がかかりませんでした。
問い合わせたところ、すぐに女性を紹介できるとのことで、翌日都内の高級ホテルで待ち合わせをいたしました。
最初にブローカーらしき方と話し、入会金を支払い手続きを済ませたあと、女性を紹介してもらうシステムでした。
現在のようにネットで女性を選ぶ~というものではなく、基本的な連絡手段は電話というアナログなものでした。
そして紹介してもらった女性。
これが驚くことに、どこにでもいそうなごく普通のお嬢さんで、とても愛人契約を結んでるようには見えないタイプでした。(仮に愛実とします)
待ち合わせはホテルのラウンジ。
およそ一時間ほど自己紹介や現況等の話しをしたあと、彼女がしびれを切らしたように、「お付き合いするのかしないのか、ここではっきりさせてください」と、突然真顔で話したときは、二度目の驚きでした。
私は正直なところ性欲はあまり強い方ではないので、迷っていたのがわかったのでしょう。
半ば愛美の押しに圧倒されたような感じで、そのあと近くのラブホに行きました。
愛美は身長が166と長身ですらりとしたプロポーションでした。
久しぶりの女性、それも若く魅力的な女体。
夢中になり行為をした覚えがあります。
行為が終わり裸のままふたりで横になっていたときに、愛美が「ごめんなさいね、なんか急かしたみたいで・・・」と言ってきました。
というのも、愛人契約する相手がかなり年配の人ばかりと聞かされていた愛美は、あまりに若い私を見てこんなチャンスはないと思っていたようでした。
結局、本当に打ち解けたのは行為の後で、金銭的な具体的な話をしたのもその時でした。
いま思えば、契約より先に寝ることで私が性的に逸脱した人間でないかチェックしていたのでしょうか。愛美の本意は分かりませんが。
私の懐事情や仕事との兼ね合いなども考慮し、結論は以下になりました。
月に3~4回のデートで内一回はお泊まり。
定額の15万円で毎月1日に振り込みという内容で成立。
デートとはいっても居酒屋やこ洒落たレストランで飲食し、私の部屋へという単調なもの。
しかしただの食事も、やはり1人で済ますのと誰かと一緒にでは全く違います。
妻とはもう何年もこうして楽しく食事などしてませんでした。
週に1度だけの逢瀬。
たったそれだけを楽しみに、仕事にも精が出ましたし、夜眠りにつくときも充実感を覚えることができました。
いつも私の自宅だったのでホテル代はいらないものの、食事代はそれなりにかかりました。
ただ、そこは経費をいくらでも使えたという強みが…(大きな声では言えませんね)
夏前の暑い日に出会ってから順調にデートを重ね、いつしか私は愛美に愛人以上の感情を覚えていることに気付きました。
しかし、私の勘違いでなければ、愛美もまた私に特別な感情を抱いているように思えました。
ちょっとした仕草であったり、言葉遣いであったり。
単純に距離が近づいたというだけで片付けるにはおかしいなと。
結局、私たちは普通に恋愛をしているような感じになり、会う回数も週2ペースになっていました。
セックスの相性が抜群に良かったこともあるのでしょう。
ある時私が、会う回数が多いからお金少し上げようかと話すと、愛美は「いいの、あれで十分です」と、爽やかな笑顔で笑ったのを今でもよく覚えています。
しかし、順調な日々はそう長くは続きませんでした。
私の仕事は12月が繁忙期なのですが、11月の終わりごろから終電は当たり前。時には会社に寝泊まりするほど忙しくなり、愛美からのお誘いも断ってばかりでした。
ただ、その頃から彼女の存在が少し重荷になっていたのも事実で、会わないことにホッとする自分もいたのです。
私の気持ちは、いくらお互いに惹かれてるとはいえ、そこはやはり愛人の関係。
明確な線引きをしたかったのですが、愛美は違いました。
まるで恋人の、ややもするとそれ以上の関係を望んでいたようです。
いくら別居中とはいえ、一応は既婚者でしたから、そこは明確に線引きをしたい私。
愛美とのすれ違いは徐々に大きくなっていきました。
クリスマスは「絶対一緒にいたい」という愛美。
私は敢えて仕事を増やし、残業を理由に断りました。
結局、その月は一度も会いませんでした。
ようやく愛美に会ったのは年が明け、実家に帰省中だった彼女を迎えに駅へ行った時。
一ケ月半ぶりのことでした。
その時に、私の正直な気持ちを伝え、これ以上は付き合えない主旨の話をして、愛美にお別れを告げました。
正直なところを言うと、愛美のことは本気で好きになっていました。
幸い繁忙期と重なり、仕事が忙しいお陰で紛らわすことができたのですが……
1人で食事をしている時など、ふとした時に「隣に愛美がいたら」がよぎってしまうのです。
たった数か月の付き合いでしたが、それほど気持ちが大きくなっていたということなのでしょう。
もし季節が違っていたら。
欲望のままに愛美と過ごし続けたら。
きっと今とは違う人生を歩んでいたかもしれません。
コメント